COPY
2001.10.05 発売
UKDZ-0004
日本のロックシーンに凄まじいインパクトを与え、今尚色褪せない輝きを放っているシロップ16gのインディーズファーストアルバム。
人間の持つ不条理さや闇を徹底的に見つめながらも、五十嵐の天才的なメロディメイキング、ソングライティングの高さで描かれたこのアルバムは、同時代を生きた俺にも衝撃的な一枚だった。名曲「生活」が収録されているが、どの曲をとってもその質は非常に高く、いま聴いてもまさに名作としか言いようが無いアルバムだ。
異形のスタイルを持ったこのアルバムが産み落とされたのち、熱狂的な支持者と共にシロップはメジャーへの階段へ駆け上っていく。
そういった意味でも、シーンに妖しく輝き属ける金字塔の様なアルバムである。
当時、俺たちはシロップと対バンする機会が多かったが、その当時から凄い狂気と殺気と切なさと、五十嵐のソングライティング能力の高さにはインディーズのバンドシーンの中でも一目置かれていた存在であった。
多くの名曲が収録されている「COPY」。何度も書くが色褪せない傑作である。


木下理樹(ART-SCHOOL)

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“COPY”のレビュー

  1. ART-SCHOOLの木下くんも書いているが〈色褪せない〉というのはこういう作品に使うのが正しいのだろう。
    ライブでは汗だくで歌う五十嵐さんだが1曲目の「She was beautiful」から始まるこのアルバムはとても冷たく危うい。
    歌詞にも磨きがかかり…いや、かかり過ぎている。軽々しく引用できないフレーズがこれでもかと投げつけられる。
    しかしこのアルバムが五十嵐さんとバンドの転換期だった事が後にわかる。
    冷たさは「ひんやり」なんてやわな物ではなく痛みを感じる物だった。しかし傑作には間違いない。もう一度言うが傑作だ。

    尚、まだ新宿にあったLIQUIDROOMのステージに初めて立つとの事で遊びに行った際に中畑さんからこのアルバムのサンプル盤を戴くも、ライブのMCで前ベーシストの佐藤さんが「バイト辞めて来ました!」と力強く話していたのでサンプル盤を返そうか悩んだ。

  2. 『デイパス』

    君は死んだ方がいい。
    なんて嘘なく純粋にサラッと歌える人は五十嵐隆以外にいないだろう。

    空をなくすはソラナックス。デイパスはデパス。私はそういう類の薬は飲まなかった。たぶんそれは、シロップの曲があったからだ。シロップの曲は私にとって、間違いなく、そういう類の薬だった。(お前には毒だから聴くのやめろと言われた事もあるが。)

    一楽曲を、その作者と全く同じ思考思想で聴く事はできない。
    五十嵐隆がなんでこんな歌詞を、こんなメロディに乗せたかは絶対に分かる事はない。(本人もそうかも知れない。自分の外に出た作品は、自分の中にあった時とは違う。子どもと同じように。)
    ただ私はこう思った。

    君は死んだ方がいい。
    人は誰しも簡単に、自然に、自分を殺している。
    何もかもを持って、背負って生きる事はない。
    何でもかんでも忘れて良いし、捨てて良いし、死んで良い。むしろその方がいい。
    後悔も、四季も、星が流れる瞬間も、全て置いていかれる。置いていくしかない物を、ずっと考えなくていい。むしろその方がいい。そう、無理せず、頑張らず、死んだ方がいい。

    君は死んだほうがいい。
    彼がそう歌ったから、私は死ねた。そして今、生きている。

  3. 作家の吉本隆明曰く、「文句なしにいい作品というのはそこに表現されている心の動きや人間関係というのが、俺だけにしかわからない、と思わせることができる作品のこと」らしいが、なら間違いなくこの作品は一級品である。
    鬱屈としたモラトリアム時代の自分の感情に唯一寄り添ってくれた音楽だった。
    一人ぼっちの、孤独な俺だけの世界にこの音楽だけが入り込めた。
    おそらく五十嵐本人も、あの一面に靄のかかった、誰も救いにこない、自閉的で堕落的でなにもかも疑い深い、精神的に常にギリギリなモラトリアムの期間をもがいていたのだろう。
    未だにガムのようにへばり付いて離れない。何度噛んでも苦くて悲しくて心地いい。

  4. COPYを端的に形容するなら、ロックなのにそれほど騒がしくなく、奇妙に落ち着く美しい静寂が詰まっていること。

    華やかなフェス仕様の曲がシーンの中心になる昨今、薄暗い部屋に独りでいる時や、通勤電車内で人としての気配を消して孤独を楽しむための静寂を鳴らせる数少ないバンド、syrup16gならでは。

    彼らの楽曲の中でもメジャーデビュー前のこのアルバムで目立つのは、スリーピースバンドならではの音数の少なさ。機械的に音を詰めることができる今の時代に、改めてアルバムの楽曲群を聴いてみても、ロックな割には耳の負担が少なくて聴きやすく、飽きがこない。それ故に、ロックでも聴いてて気分が落ち着いて、LOWな方向に聴く者の気分を静かに突き落とす狂気をはらむ作品となっている。syrup16gのアルバム作品群全体の中では、どのロックカテゴリーに分類されることも、マイルドにご遠慮されるような奇妙にニュートラルでシンプルで、何にも形容しがたいポジションに位置している。

    なお、COPYに関してはどの時代もある人の人生の普遍的などうしようもなさを無邪気に奏でることが許されていた青春時代に作られたが故に、多分あと10年20年経っても世の中で一部の人達にだけは淡々と普遍的に聴かれ続けると確信している。

    ちなみに、たまに、syrup16gのファンと名乗る人をSNSやメディアで見る。その人達の中に漫画家とか作家とか閉じこもって長編のストーリーを書く仕事をしている人達や、受験勉強中の受験生が多い人がわかる気がする。何故なら、音が耳の負担になり辛く、静寂を奏でていて、かつ、単曲だけでなく、アルバム全体を聴いた時にわかる、捨て曲無しの楽曲の並びの素晴らしさは、人生というあまりにも長すぎるストーリーの途中でまずなんとしてでも生き延びるために、自分や世界に対する期待値を落としてでも命を大事にすることを聴く者に悟らせるからではないか?音楽版、夜と霧。

    単にファンと分かりやすく交流するだけでなく、こういうレビューという名のMROC(ユーザー生活調査サービス)ぽいことをベースにして、バンドもファンも一旦客観的に突き放しながらも観察して曲を作るのがsyrup16g。ファンに長年愛されながらも、実は割と冷静に作品を作っている。バンドの活動の頻度に比べ、COPYがここまで長年愛されている時点でsyrup16gは音楽シーンの短期戦には正直敗れつつも、長期戦に対しては何とか勝利しているようで、ファンとしても、正直嬉しい。

  5. とにかく色々逃げたくて救われたくて仕方なかった昔、「誰が何言ったって気にすんな 心なんて一生不安さ」という言葉に驚きました。この辛さが一時的なものではないなんて、今こんなに悩むことはなんて無意味なことなんだろうと。
    以来十数年何度も何度もその言葉を思い返してます。

    無責任なことを言わない、優しさがsyrup16gの曲にはあると思います。どの曲も今でも色褪せず大好きです。